東京高等裁判所 平成4年(ネ)1462号 判決 1992年12月24日
東京都新宿区歌舞伎町二丁目四一番八号
控訴人
株式会社土壌浄化センター
右代表者代表取締役
新見正彰
右訴訟代理人弁護士
菅野庄一
同
梶山正三
同
薦田哲
同
釜井英法
東京都西多摩郡奥多摩町氷川一一六五番地
被控訴人
有限会社榎木工業
右代表者代表取締役
榎森清
鳥取県米子市米原三一番地
被控訴人
大成工業株式会社
右代表者代表取締役
佐藤幹
右両名訴訟代理人弁護士
吉原省三
同
小松勉
同
松本操
同
三輪拓也
東京都新宿区西新宿二丁目八番一号
被控訴人
東京都
右代表者知事
鈴木俊一
右指定代理人
西道隆
同
村瀬勝元
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らは、控訴人に対し連帯して、金二〇六万五一五〇円及び被控訴人有限会社榎木工業については平成二年八月二六日から、被控訴人大成工業株式会社及び被控訴人東京都については平成二年八月二八日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
四 仮執行宣言
第二 事案の概要
一 次のとおり附加訂正するほかは、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三枚目表二行目の「損害賠償」の次に「として、控訴人が訴外奥薗清「に本件特許権の専用実施権を設定したにもかかわらず被控訴人榎木工業において被告方法を施行したため控訴人が右訴外人から右実施料を受け取ることができなくなったことにより蒙った右実施料相当額及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまでの遅延損害金」を加える。
2 同三枚目裏九行目の「土壌」を「土壌層」と訂正し、同五枚目裏七行目の「すぎない。」の次に行を改めて「本件特許請求の範囲に記載された『誘導毛管現象』とは、不飽和浸透水流と全く同義であるが、このことは、次のことから明らかである。まず第一に、本件特許請求の範囲に『土壌中で前記汚水を放出し、この土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめて土壌層中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめ、当該浸透移動の過程で汚水処理を行なう』との記載があり、誘導毛管現象を惹起せしめるのは土壌中での汚水の放出であること、土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめることが土壌層中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめることと同義であることが示されている。第二に、飽和浸透水流がなければ誘導毛管現象がないことを明示する証拠は全くなく、かえって本件証拠(甲一九ないし二一)には誘導毛管水の運動は水の粘性に基づく運動ではなく土の毛細管のサイホン作用によるものであることが示されている。
したがって、本件発明にいわゆる誘導毛管現象は、飽和浸透水流によって生じるものではなく、その存否と関係がないから、右の『適当な土壌層』が誘導毛管現象を生じることが可能な程度の厚さとなることを考慮する余地もないというべきである。」を加える。
3 同七枚目裏四行目の「いうことができる。」の次に行を改めて「控訴人は、飽和浸透水流がなければ誘導毛管現象がないことを明示する証拠がなく、証拠(甲一九ないし二一)には誘導毛管水の運動は水の粘性に基づく運動でなく、土の毛細管のサイホン作用によることが示されていると主張して、本件特許請求の範囲に記載された『誘導毛管現象』とは不飽和浸透水流と全く同義であり、本件発明の誘導毛管現象は、飽和浸透水流によって生じるものではなく、本件発明の『適当な土壌層』が誘導毛管現象を生じることが可能な程度の厚さとなることを考慮する余地がないと主張する。しかし、控訴人指摘の甲号各証を検討するとむしろ誘導毛管水は地下水の運動に伴って生じることが記載されており、本件発明における『誘導毛管現象』とは不飽和状態における水の移動の一つの態様にすぎず、不飽和浸透水流と同義ではなく、本件発明が地下の不透水地盤に沿って生じる誘導毛管水現象を利用したことは明らかであり、控訴人の主張は失当というほかはない。」を加える。
二 証拠関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
第三 争点に対する判断
当裁判所も、控訴人の本訴各請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり附加訂正するほかは原判決事実及び理由の「第三 争点に対する判断」の欄の説示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決八枚目表六行目及び九枚目裏一〇行目の「不飽和条件」の次に「で」を加え、八枚目裏一一行目の「乙一二」の次に「の一ないし四」を加え、同九行目の「矢印Bの方向」を「矢印B方向」と訂正し、一〇枚目表八行目の「37行ないし43行」を「39行ないし41行」と訂正する。
二 同一〇枚目裏一行目の「誘導毛管現象」から裏三行目の「ことはできない。」までを「控訴人は、第一に、本件発明の特許請求の範囲に『土壌中で前記汚水を放出し、この土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめて土壌層中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめ、当該浸透移動の過程で汚水処理を行なう』との記載があり、誘導毛管現象を惹起せしめるのは土壌中での汚水の放出であり、土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめることが土壌層中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめることと同義であることが示されていること、第二に、飽和浸透水流がなければ誘導毛管現象がないことを明示する証拠は全くなく、かえって証拠(甲一九ないし二一)には誘導毛管水の運動は水の粘性に基づく運動ではなく、土の毛細管のサイホン作用によるものであることが示されているので、本件特許請求の範囲に記載された『誘導毛管現象』とは、不飽和浸透水流と全く同義であって、本件発明の誘導毛管現象は、飽和浸透水流によって生じるものではないから、本件特許請求の範囲に記載された『適当な土壌層』が誘導毛管現象を生じることが可能な程度の厚さとなると考える余地もない、と主張している。なるほど、本件特許請求の範囲には『土壌中で前記汚水を放出し、この土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめて土壌層中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめ、当該浸透移動の過程で汚水処理を行なう』と記載されているから、本件発明において汚水の放出が誘導毛管現象を惹起せしめる必要条件の一つであることが明らかである。しかし、証拠(乙一二の一ないし四)によれば、不飽和条件における水の移動には様々な形態があることが認められるところ、控訴人摘示の記載は『傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定し、傾斜上部における前記』(土壌中で)に続く記載であり、本件発明における汚水の放出は、このような土壌中になされるのであって、本件発明は、このことにより右土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめて不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめることを必須の要件としており、汚水を放出すべき土壌層は限定されているのであるから、この要件を無視して、土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめることが土壌層中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめることと同義であるということはできない。また、証拠(甲一九ないし二一)には、物理的に誘導毛管水の運動が生ずる原因に関しこの運動が水のく、土の毛細管のサイホン作用による運動であることが記載されてはいるが、他方で、前記のとおり、誘導毛管現象とは、地下水面に接する毛管水帯の水分が地下水の流動の方向にこれに類似した運動をする現象を意味することも記載されていることが認められるから、本件明細書の前記記載事項に照らし、本件発明における誘導毛管現象が飽和浸透水流を必須の前提とするものであると言っても何ら差し支えないというべきであり、結局誘導毛管現象の意義を控訴人主張のように解することはできず、控訴人の右の主張は失当というほかはない。」に改める。
三 同一一枚目表六行目の「二一の一ないし三)」の次に「と弁論の全趣旨」を加え、表一〇行目の「古生代」を「中生代」に改める。
四 同一一枚目裏末行、一二枚目表一行目の「廃水処理処理施設A」を「廃水処理施設A」に改め、同表五行目の「浸透水流によって」を「浸透水流に伴って」に改める。
第四 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)